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日本で一番東にある古本屋〈道草書房〉のブログです。 本やそれにまつわる色々についてのよもやま話です。






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みちくさ(道草書房店主)

Author:みちくさ(道草書房店主)
専門分野は、ミステリ・文学、それと郷土(北海道/根室)関係をちょこっと。
日本の片隅で細々と商いをしている、古雑誌をこよなく愛するおっちゃんです。



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【店主の読書ノートその9】『映画の学校』(双葉十三郎著、晶文社刊)
映画の学校



今年になってまだ1ヶ月経っていないのに、死人が多すぎる。
新聞の死亡記事やネットのニュースなんかを見て、つくづくそう思う。

そのなかでも個人的にショックだったのは、ファイターズ投手コーチの小林繁の急逝。
あまりにも突然なうえに57という若さ。現役時代からブラウン管を通して観てきただけに、信じられない思いがいまだある。

それに較べて双葉十三郎氏は、99歳という年齢からして大往生と云えるのだろう。
しかし、少なくとも100まで生きるんだろうな、と手前勝手に決めつけていたので、訃報に接したときは、まだ早過ぎるだろうという感じがしたものだ。

そんな思いを抱きながら、追悼の意味で『映画の学校』(双葉十三郎、晶文社、1973年初版)を倉庫から引っ張り出し、拾い読みしてみた。

「サスペンス」「ミュージカル」「西部劇」と副題風にあるが、ミステリ/サスペンス系列の作品批評の比重が大きい。とくにヒチコックについては、それで1章を割いてあるように、その作品を微細に検証している。
もっとも、「検証」なんて言葉を使ったが、いわゆる「お堅い」文章ではない。戦前から映画に携わっていた人らしい、モダンで洒脱な文体である。

されど、スタイル(文体)が軽快だからといって、内容まで軽いかと思ったら大間違い。褒めるところは褒めるが、悪いところはしっかり指摘しているし、時には鋭く批判もしている。

とくに、「日本映画月評」が秀逸。『映画芸術』誌上に連載されたものを収録しているのだが、1948~50年に上映された映画をばっさりと斬っている。

その多くは、今では忘れ去られた粗悪なプログラム・ピクチャーだったりするのだが、それだけではない、黒澤明の『羅生門』や『野良犬』、小津安二郎の『晩春』なんかも、悪い部分はきっちりと指摘している。そして凄いのは、読んでいてその指摘が肯けるものであること。
そういったものを論じる一方で、『透明人間現わる』のような作品も、そうしたものを創ろうとする実験精神やストーリイテリングのいいところは、きちんと評価している。

つまり、有名監督に対する批判のための批判とか、カルト的なものだからと無視もしないが無批判に称揚したりもしない、きちんとした評論だということである。そういうところに、作者の鑑賞眼のたしかさを改めて認識するのである。


本書には、巻末に小林信彦氏との対談が、一種のボーナストラックみたいな感じで載っている。「解説対談」と銘打たれたこの文章、戦前~戦後のエンタテインメント出版の証言として貴重なものだったりする。タメになる一冊。