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日本で一番東にある古本屋〈道草書房〉のブログです。 本やそれにまつわる色々についてのよもやま話です。






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みちくさ(道草書房店主)

Author:みちくさ(道草書房店主)
専門分野は、ミステリ・文学、それと郷土(北海道/根室)関係をちょこっと。
日本の片隅で細々と商いをしている、古雑誌をこよなく愛するおっちゃんです。



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【店主の読書ノートその15】『熱波』(今野敏著、角川書店刊)
熱波


1999年の作品。
舞台は沖縄。
普天間基地返還が決まったばかりのころである。

自治省から内閣調査室へ出向しているキャリア官僚磯貝竜一は、突然、上司から沖縄出張を命令された。
待ち受けていたのは、新たに県政を担うことになった屋良知事と、その選挙参謀から県庁に補佐官として入った比嘉隆昌。
比嘉には、沖縄独立論者という噂がある。

磯貝は、その真意を確かめようと彼に近づくが、
のらりくらりとかわされるだけでいっこうに埒があかない。
だが、何かがあることは間違いない。
実際、何者かに尾行されているようだし、銃撃にも巻き込まれた。

帰京後、比嘉のことも含めて報告した磯貝に、改めて沖縄県庁への出向が通告される。

経済特区、フリーゾーンとして、自由貿易・沖縄を目指す比嘉たち。
そこで発生する利権に与ろうとしている台湾マフィアたちの抗争。
そういった個々の事象と、その背後にある何か。
それが、ささいなきっかけから暴発していく―。

ミステリとしてみれば、キャリア官僚というには主人公の磯貝が色々と鈍くて、読者より一歩も二歩も遅れている感がいなめない。
ただし、そこは東大ではなく私大出という設定のためかもしれないし、根本的に偏差値エリートなんてその程度だ、というメッセージなのかもしれない。
その点が弱いとも云えるが、逆にそれが作者の意図と見ることもできる。

即ち、そうした頭でっかちでお役人気質の主人公が、現場に身を置き修羅場をかいくぐることで人間的に成長していく物語なのだ、というコトである。
与えられた状況の中で、自らの意思で動くことによって人間は変わることが出来る、というが、この小説の主題なのだろう。

現実の政治では、
沖縄特区構想は形だけになったし、普天間基地はまだ返還されていない(それどころか、返還の見返りを持ち出されて泥沼のままだ。)。
そういう意味では、この小説の前提は崩れている。

でも、
それはあくまで状況設定でしかなく、
前述したようなこの小説の主題は、
もうちょっと普遍的なものだと私サトーは思っている。

警察小説にいく前の今野敏のサスペンス小説。


この本は、道草書房古書目録《不定期航路》第2便に掲載しております。
http://www18.ocn.ne.jp/~michiksa/il02-2h.html
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