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日本で一番東にある古本屋〈道草書房〉のブログです。 本やそれにまつわる色々についてのよもやま話です。






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みちくさ(道草書房店主)

Author:みちくさ(道草書房店主)
専門分野は、ミステリ・文学、それと郷土(北海道/根室)関係をちょこっと。
日本の片隅で細々と商いをしている、古雑誌をこよなく愛するおっちゃんです。



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【店主の読書ノートその17】『オデッサ・ファイル』(フレデリック・フォーサイス著、角川書店刊)
オデッサ・ファイル


偶然立ち会うことになった老ユダヤ人の自殺現場。フリーのルポライター、ペーター・ミラーにとってそれは、記事にもならないささいな出来事にすぎないはずであった。
しかし、知合いの担当刑事から渡された老人の手記が、すべてを変える。そこには、大戦中ラトビア・リガの収容所であった、ナチス親衛隊(SS)による非道な行いが書き綴られていた。とくに所長であるロシュマンのユダヤ人に対する虐待や、リガを脱出する際に彼が手を下したドイツ人将校殺しの告発が、ミラーに衝撃を与える。
調べてみるとロシュマンは、名前を変えて現在もドイツで生活しているらしい。しかも、相当な地位の名士として。
憤然としてロシュマンの行方を追うことを決意するミラーだったが、それは、すぐにナチス残党の秘密組織“オデッサ”の知るところとなる。虎の尾を踏んだ彼の行く手に、“オデッサ”が立ちはだかるのは、必然のことであった……。


はじめて本書を読んだのは高校生のときだから、もう四半世紀も前のことになります。数年前、同じ作者の『ジャッカルの日』を再読して、予想以上に面白かったので、本書もまた改めて読んでみた次第。

1970年代―その萌芽は60年代後半から出ていましたが―、「ニュージャーナリズム」という言葉が、盛んに言われるようになりました。

「ニュージャーナリズム」とは何か?

それは、従来の政府や大企業の発表資料や広報によらず、独自の取材と切り口で調査し、隠されていた事実を報道するというもの、と定義できるかと思います。その試みは、報道のみに留まらず、文学の世界にも影響を及ぼしました。
そうしたなか、それを大衆小説のプロットの中に巧みに取り込み、ベスト・セラーとなったのが、フレデリック・フォーサイスの初期の作品群なのです。

本書に則って具体的に云えば、ロシュマンを捜していくやり方がまさにそれ。その方法論は、ジャーナリストによる取材過程と酷似しています。この手法が中段のサスペンスを産み、かつまた内容に真実性をもたらしています。

警察小説とも私立探偵物とも、ましてや本格推理小説とも違う、謎へのアプローチ。
ここにこの作品のミソがある、と私は考えます。

実のところ、取り扱う情報の性質や、取材による探求という「新しさ」の衣装を剥ぎとった物語そのものは、失踪人探しというミステリの定番プロットな訳です。
また、本書のコア(核)となる主題は、エンタテインメント(あるいは伝奇小説と言い換えてもいい)の古くからある型であり、決して「新しく」はありません(同様の事は、処女作『ジャッカルの日』ついても指摘できることです。)。

そういった「定番」の「古さ」を、「イスラエルとエジプトの対立構造」や「西独の戦後事情」、「ナチス残党の秘密組織」などといった衣で包み、「新しい」装いにしたのがフォーサイスの工夫なのです。

1960年代の国際情勢とナチスに関するジャーナリスティックな問題意識を、エンタテインメントと巧みに融合した傑作。
一読の価値あり、です。

【道草書房HP】http://www18.ocn.ne.jp/~michiksa/
【スーパー源氏】http://sgenji.jp/

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